月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅
人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえ
て老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖と
す。古人も多く旅に死せるあり。
予もいづれの年よりか、片雲の風にさそは
れて、漂白のおもひやまず、海浜にさすらへ、
去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、
やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえん
と、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道
祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。
もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、三
里に灸すゆるより、松嶋の月先心にかゝりて
住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、
草の戸も住替る代ぞひなの家
面八句を庵の柱に懸置。 |

白河の関の南・芦野の遊行柳
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松尾芭蕉の『奥の細道』は日本
文学史上の最高傑作である。特
に、紀行文学が好きな者にとっ
ては、たまらない魅力がある。
『奥の細道』は、芭蕉46歳の
元禄2年(1689)3月27日
に江戸深川を出発し、8月21
日に岐阜大垣へ到着するまでの
5ヶ月間約600里の旅の記録
である。
流麗な文章に珠玉の俳句をちり
ばめたこの紀行文学は、5年間
をかけて推敲され、元禄7年春
に完成したが、その年の10月
12日、芭蕉は51歳で亡くな
っている。
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