千じゆと云所にて船をあがれば、
前途三千里のおもひ胸にふさがり
て、幻のちまたに離別の泪をそゝ
ぐ。
行春や鳥啼魚の目は泪
是を矢立の初として、行道なを
すゝまず。人々は途中に立ならび
て、後かげのみゆる迄はと見送な
るべし。
ことし元禄二とせにや、奥羽長
途の行脚只かりそめに思ひたちて、
呉天に白髪の恨を重ぬといへ共、
耳にふれていまだめに見ぬさかひ、
若生て帰らばと、定なき頼の末を
かけ、其日漸早加と云宿にたどり
着にけり。痩骨の肩にかゝれる物、
先くるしむ。只身すがらにと出立
侍を、帋子一衣は夜の防ぎ、ゆか
た・雨具・墨筆のたぐひ、あるは
さりがたき餞などしたるは、さす
がに打捨がたくて、路次の煩とな
れるこそわりなけれ。
千住や草加は、今では大都会の雑踏
の中にある。しかし、大通りから少
しはずれれば、芭蕉をしのぶにふさ
わしい空間が残っている。草加松原
を歩いていると、ここでは芭蕉がま
だ生きているようで、うれしかった。 |

芭蕉が隅田川をさかのぼり
上陸したのが千住大橋付近 |

日本の道百選・日光街道草加松原に立つ松尾芭
蕉文学碑。ことし元禄二とせにやの一節が。 |