山形領に立石寺と云山寺あり。慈覚大師の開基にし
て、殊清閑の地也。一見すべきよし、人々のすゝむる
に依て、尾花沢よりとつて返し、其間七里ばかり也。
日いまだ暮ず。梺の坊に宿かり置て、山上の堂にのぼ
る。岩に巖を重て山とし、松柏年旧土石老て苔滑に、
岩上の院々扉を閉て物の音きこえず。岸をめぐり岩を
這て仏閣を拝し、佳景寂寞として心すみ行のみおぼゆ。
閑さや岩にしみ入蝉の声

奥の院への石段を登り弥陀洞をすぎると仁王門が見える。

五大堂への石段から、岩の上の納経堂を見上げる。 |
尾花沢に10日間滞在した芭蕉は、清風らのすすめ
によって立石寺に向かった。やや気まぐれに立ち寄
った寺で、あの名句が生まれた。
その日の内に山を上り、宿坊に1泊して、翌日、最
上川の船着場をめざした。

五大堂から見る地形は、芭蕉の時代と余り変わって
いないのではないだろうか。

根本中堂横の「閑さや」句碑、1853年建立。 |