芭蕉が見た風景 吉野 2017/5/19 K-5Us
2018/5/23 k-7

芭蕉は「野ざらし紀行」の旅と「笈の小文」の旅で、吉野へ2度来ている。
「野ざらし紀行」の旅は、1684年、芭蕉41歳、「笈の小文」の旅は、1687年、芭蕉44歳の時であった。
「奥の細道」の旅へ出る5年前と2年前のことである。


野ざらし紀行

独(ひとり)吉野の奥に辿りけるに、まことに山深く、白雲峰に重り、煙雨谷を埋んで、山賤(やまがつ)の家処々に小さく、
西に木を伐る音東に響き、院々の鐘の声は心の底にこたふ。


昔よりこの山に入て世を忘たる人の、多くは詩にのがれ、歌に隠る。
いでや唐土(もろこし)の廬山といはむも、またむべならずや。


ある宿坊に一夜を借りて
碪(きぬた)打て 我に聞かせよや 坊が妻

芭蕉が泊まったとされている東南院に句碑がある。東南院には今も宿坊があり泊まることができる。
「野ざらし紀行」の旅で芭蕉が吉野をおとずれたのは、秋だった。

 

句碑は門を入って左手にある。右手には多宝塔としだれ桜。


西上人(さいしょうにん)の草の庵の跡は、奥の院より右の方ニ町ばかり分け入ほど、
柴人のかよふ道のわづかに有りて、さがしき谷をへだてたる、いとたふとし。
かのとくとくの清水はむかしにかはらずとみえて、今もとくとくと雫落ちける。
露とくとく こゝろみに浮世 すゝがばや

もしこれ扶桑に伯夷(はくい)あらば、必ず口をすすがん。もしこれ許由(きょゆう)に告げば、耳を洗はん。


ここでは西行上人を西上人と書いている。
西行の「とくとくと〜」の歌に因んだ「苔清水」が西行庵近くにあり、そばに芭蕉の句碑がたてられている。

伯夷や許由は中国の武人と皇帝であるが、筆者は、清水を飲み、タオルを濡らして顔の汗を拭いた。とても冷たかった。


西行が3年間暮らしたという西行庵。中央の石は歌碑。
とくとくと落つる岩間の苔清水 くみほすほどもなきすまひかな


清水の右手が「野ざらし紀行」の句碑、左手が「笈の小文」の句碑。


露とくとく〜の句碑は1848年の建碑。

下記は「真蹟懐紙」に記載されていたものであるが、「野ざらし紀行」の旅の時の作品である。

暮秋、桜の紅葉見んとて吉野の奥に分け入り侍るに、藁沓(わらぐつ)に足痛く、杖を立ててやすらふほどに

木の葉散る 桜は軽し 檜木笠


句碑は金峯神社手前の右手にある。 文字は芭蕉の真筆。

山を昇り坂を下るに、秋の日既斜になれば、名ある所々見残して、先後醍醐帝御廟を拝む。
御廟年経て 忍(しのぶ)は何を しのぶ草


後醍醐天皇が歩いたとされている如意輪寺への道。
南朝の皇居があった吉水神社から如意輪寺まで約30分。


如意輪寺山門。門のむこうに本堂が見える。
後醍醐天皇即位七百年の幟があちこちにたっていた。


後醍醐天皇陵墓。


陵墓への上り口付近に句碑がある。

■笈の小文

弥生半ば過ぐる程、そヾろにうき立つ心の花の、我を道引く枝折(しをり)となりて、吉野のゝ花におもひ立たんとするに、
かの伊良古崎にて契り置きし人の、伊勢にて出迎ひ、ともに旅寝のあはれをも見、かつは我が為に童子となりて、
道の便リにもならんと、自ら万菊丸(まんぎくまる)と名をいふ。
まことに童(わらべ)らしき名のさま、いと興有り。いでや門出(かどいで)のたはぶれ事せんと、笠のうちに落書す。

乾坤(けんこん)無住同行二人

よし野にて 桜見せふぞ 檜木笠
よし野にて 我も見せうぞ 檜木笠  万菊丸


この句は、吉野へ向かう前に伊賀上野で詠んだとされている。



句碑は下千本の吉野山駐車場からすぐの右手道路沿いにある。
幕末ごろの
建碑とされているが、風化していてほとんど読めない。

この句碑の少し先の左手に昭憲皇太后御野点跡の碑があり、向かいに芭蕉句碑がある。
「笈の小文」には記載されていないが、「笈の小文」の旅で詠まれたものとされている。

花盛り 山は日ごろの 朝ぼらけ


1817年に建てられたもので吉野山の芭蕉句碑の中で最も古いとされている。200年経過しているが字がはっきりしている。


苔清水
春雨の 木下(こした)につたふ 清水哉

吉野の花に三日とゞまりて、曙、黄昏のけしきにむかひ、有明の月の哀なるさまなど、心にせまり胸にみちて、
あるは摂政公のながめにうばはれ、西行の枝折(しおり)にまよひ、かの貞室がこれはこれはと打ちなぐりたるに、
われいはん言葉もなくて、いたづらに口をとぢたる、いと口をし。
おもひ立ちたる風流、いかめしく侍れども、爰(ここ)に至りて無興(ぶきょう)の事なり。


 

龍門
龍門の 花や上戸(じょうご)の 土産(つと)にせん
酒飲みに 語らんかかる 瀧の花


吉野町の龍門の滝に歌碑がある。龍門の〜の句が大きく刻まれ、隣に酒飲みの〜の句が小さく刻まれている。
関連ページ 滝を見にゆく/龍門の滝

[芭蕉が見た風景]