シネマ紀行
 あなたへ
 兵庫県朝来市、山口県下関市、福岡県北九州市、長崎県平戸市・長崎市

 2012年 「あなたへ」製作委員会=東宝 111分
[監督]
降旗康男
[原作・脚本]青島武
[撮影]林淳一郎
[音楽]林祐介
[出演]高倉健、 田中裕子、佐藤浩市、草g剛、余貴美子、綾瀬はるか、三浦貴大、大滝秀治、長塚京三、原田美枝子、浅野忠信、ビートたけしほか



『駅 STATION』、『鉄道員』などの名作を生み出した降旗康男監督と高倉健主演の作品。
主人公倉島英二(高倉健)は亡き妻(洋子・田中裕子)の遺骨を生まれ故郷の平戸の海に散骨するために、富山から長崎へ、
洋子と乗るはずだったキャンビング仕様に改造した車で、洋子の思い出をたどりながら旅を続ける。
総移動距離9000kmにおよぶ長距離ロケだったという。



高倉健さんは2014年10月、83歳で亡くなった。
この作品は、2012に公開された高倉健さん81歳のときの作品であり遺作となった。こころからお悔やみ申し上げます。
また、2012年に87歳で亡くなった大滝秀治さんの遺作でもある。散骨の船を出す老漁師を見事に演じていた。
合わせてご冥福をお祈りします。

映画の中で印象に残っているのは、旅の途中で知り合った元国語教師を名乗る車上荒らし・杉野輝夫(ビートたけし)の言葉。
種田山頭火の句を引用しながら、「旅と放浪の違いは、目的があるかないか、帰る場所があるかないかです」と話す。
夫婦のあり方を描いた作品であるが、
杉野のこの言葉も、この映画の もうひとつのテーマではないかと思う。

映画のラストでは、門司港を歩く主人公の横顔と種田山頭火の句が映し出される。
このみちや いくたりゆきし われはけふゆく

これは、山頭火の旅の記録『行乞記』の最初に書かれている句で、昭和5年(1930)、山頭火47歳の時に熊本で詠まれたものとされている。
『行乞記』にはこの句といっしょに次の句が書かれている。山頭火の孤独感がひしひしと伝わってくる。
しづけさは 死ぬばかりなり 水がながれて

なお、この作品は、脚本をベースに森沢明夫によって小説化(幻冬舎文庫)され、映画が公開される半年前に発行された。
大筋では映画と同じである。映画では時間の制約があり描ききれない部分は観客の想像に任されるが、小説ではより細かに描かれていた。
特に、脇役の人物の過去と現在の描き方が具体的だった。

文庫本の最終ページに、「本書は映画「あなたへ」(脚本・青島武)を原案に創作された小説です」と書かれている。
映画とは別のものだと思って読めばそれはそれで納得できるが、映画の印象が変わるので、映画をみる前に読むのはお薦めできない。
 

兵庫県朝来(あさご)市竹田 2006/10/20

洋子は竹田城址での「天空の音楽祭」を最後に歌うことをやめ、やがて英二と結
婚する。
英二はJR播但線竹田駅前で車中泊し、洋子との思い出がある竹田城址に登る。

ロケされたのは、竹田駅と竹田城址。回想と現実とが重なり合って描かれていた。

 

JR播但線竹田駅。後ろの山が竹田城址。


山口県下関市火の山公園
 
2014/12/9


英二は関門海峡が見える火の山公園で杉野と再会し、身の上話などをする。そこへパトカーがやって来る。

杉野は車上荒らしで手配されていた。警官(浅野忠信)に連行される際に、
「放浪するうち、迷ってしまいました」と言い残す。



ロケが行われたのは、火の山公園山頂という石碑がある展望台。

英二も杉野も車を乗り入れているが、ここは車椅子の車と工事用車両の通路で、ここには駐車できない。



 

 
 おとずれたのは10時半頃。天気がよいと逆光になる。午後遅くの方が光線状態がよさそうだ。


火の山公園山頂の石碑。崖にせり出したウッドデッキの展望台。


英二と杉野が車を止めた場所。

福岡県北九州市門司区役所
2014/12/9


英二は杉野の事情聴取に同行する。
下関西警察署としてロケされたのが門司区役所。

関連サイト  レトロな建物を訪ねて/門司区役所

(門司区役所の画像がたくさん掲載されている)
 



身元確認が行われている間、英二は警察署のロビーで待つ。
電照の説明板の位置に長椅子があり、そこに座って待っていた。


身元確認が済み、英二は警察署を出る。映画では門司区役所の建物全体は写し出されていなかったが、国の登録有形文化財。

■下関市唐戸 2014/12/9

警察署を出た英二は、杉野から手渡された山頭火の本(『草木塔』)を手にしながら、関門海峡をぼんやりと眺める。

そこへ、京都で知り合った、物産展などで「いかめし」の販売をやっている田宮裕司(草g剛)から電話がかかってくる。



ロケされたのは唐戸市場駐車場の前、道路を挟んだ海側のウッドデッキ。

おとずれたのは11時すぎ。
ここも逆光気味ですっきりしない。しかも、関門橋はリフレッシュ工事中だった。



 

 

■門司港船だまり付近 2014/12/9

田宮が「いかめし」の販売を行っていたのが門司港船だまり付近。
自動販売機の前あたりにテント張りの店を出していた。

英二は田宮と、田宮より年上であるが田宮の部下でどこか訳ありげな南原慎一(佐藤浩市)と酒を飲む。

田宮は、妻には男がいることを悲しげに話す。田宮には帰る場所がなくなりつつあり、放浪のような今の生活を続けるしかない。

英二は、散骨のために平戸の薄香(うすか)へ向かっていることを話す。その夜、同じホテルへ泊まった南原が英二の部屋をたずねてくる。薄香で船の手配に困った時はこの人に連絡してみてください、とメモを渡される。

 

 
■長崎県平戸市薄香 2014/12/13

英二は陽子の遺言に従って、薄香の郵便局で洋子からの手紙を受け取る ために薄香へやって来る。

薄香というしゃれた地名なので架空の地名かと思っていたが、
平戸大橋から約5km、平戸市街地中心部から約2kmの坂を越えたところに実在する場所だった。
薄香に入るには東側の県道200号線から入るが、坂道を漁港に向かって下って行くと突然に家並みが見え、すぐに公民館前に着く。
英二はU字形の入り江の西側から、家並みを見ながら入り江沿いに車を走らせる。この方が英二の気持ちが反映される。


U字形の入り江全体を入れて撮影できる場所は見つけられなかった。
この写真は、英二が薄香を立ち去るときに映し出される漁港の俯瞰。県道から少し西へ入った地点から撮影した。
映画と全く同じ構図であるが、映画では入り江から勢いよく出港する漁船が映し出されていて、漁港で生きることの希望の象徴のようだった。


英二は平戸大橋を渡って平戸島へ入る。大橋はリフレッシュ工事中だった。


英二は入り江の西側の道を通って漁港へ向かう。


英二が車を走らせる入り江の西側の道。


郵便局で洋子からの手紙を受け取る。ロケされたのは公民館。

洋子からの手紙の中身ははがきが1枚。はがきには灯台と空を舞う鳥が描かれ、さようならとだけ書かれていた。
英二は散骨を依頼するために、漁協や釣船店などをたずねるが断られる。そして、夕食をとるために濱崎食堂へ入る。
濱崎食堂は、夫が海で遭難して行方不明になった濱崎多恵子(余貴美子)と娘の奈緒子(綾瀬はるか)が切り盛りしていた。
そこへ、奈緒子の婚約者の大浦卓也(三浦貴大)が漁から戻ってくる。
南原から手渡されたメモを見せる。メモに書かれている大浦吾郎(大滝秀治)は卓也の祖父だった。
卓也の両親も海で遭難し、祖父とふたりで暮らしていた。


漁協は現役の漁港でロケされていた。


濱崎食堂としてロケされたのは茶色の建物。内部はセットで撮影。

激しい雨の中、卓也は英二を伴って自宅へ戻り、吾郎へ散骨を依頼するが断られる。
英二の態度から、散骨に対しての迷いがあることを見抜いたからである。


大浦吾郎宅としてロケされた民家へは、ガイドの赤い矢印があり、難なくたどりつけた。内部は希望すれば見学できたのであるが何となく入りにくかった。


英二が車中泊のために車を止めたフェリー乗り場近くの埠頭。
赤灯台が何度も映し出されていた。

翌日は朝から晴れ。英二は、洋子が13歳まで過ごしたという集落の中を歩く。
そして、写真館のウインドウの中の13歳の洋子の写真と出会う。
英二は写真に向かって「ありがと」と言い、灯台へ行って2枚のはがきを海へ飛ばす。
ふたたび吾郎をたずね、船を出してくれるように依頼する。
英二の覚悟を読み取った吾郎は船を出すことを承諾する。


入り江沿いの道から集落の中へ。


小さな橋を渡り右へ緩い坂道を進む。


富永写真館は空き家を改装したもの。よく出来ていたので実在の写真館かと思ってしまった。

■長崎市伊王島灯台 2014/12/14

英二ははがきに描かれた灯台を訪ねる。そして、海へ散骨するかどうか迷っている自分の思いを断ち切るかのように、はがきを空へ投げ上げる。はがきが鳥のように舞 い上がり、海へ消えて行く。



ロケが行われたのは伊王島灯台。伊王島へは橋がかかってから簡単に行けるようになった。橋を通って伊王島へ渡るのははじめてで、10年ぶりだった。


関連サイト
灯台への道/伊王島灯台





 


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■門司港船だまり付近 2014/12/9

散骨を終えた英二が門司港へ戻ってきて、無事散骨を終えたことを南原に伝える。
南原は薄香の漁師で、時化で遭難したように見せかけ、妻(余貴美子)と娘(綾瀬はるか)を残して失踪したのだ。

そのことを感じ取っていた英二は、娘と婚約者が写った写真を南原へ渡す。
その後、南原は薄香へ帰れただろうか、それとも放浪を続けたのだろうか。

ラストシーンが撮影されたのも門司港船だまり付近。
 
英二と南原が話をしているバックに「ドナウ川のさざなみ」が流れていた。客寄せのために流しているのであるが、このシーンによく合っていた。

南原が英二へ話した言葉。
 薄香の港、小さな港だったでしょ。
 あの港で生まれ育って、あいつと結婚して、奈緒子が生まれたんです。
 小さな港から海に出て、漁をする。それで十分だったはずなのに、陸(おか)に上がりたいなんて思ったのが間違いだったんです。


南原へ薄香のことを話した岸壁。関門橋のむこうに火の山が見える。


ラストシーン。英二の横顔が映し出される岸壁。

この映画では助演が光っていた。
第36回日本アカデミー賞では、佐藤浩市(優秀助演男優賞)、大滝秀治(最優秀助演男優賞)、余貴美子(最優秀助演女優賞)が受賞している。
故郷を、妻を、子を捨てた南原慎一を演じた佐藤浩市が素晴らしかった。彼の境遇は山頭火にも似たところがあり、せつなかった。


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