万葉の旅

味真野あじまの

2010/5/20
K-7
                                   
万葉集巻15の目録には、中臣朝臣宅守、蔵部の女嬬狭野弟上娘子を娶(ま)きし時に、勅して流罪に断じて、越前国に配(なが)しき。
ここに夫婦の別れ易く会い難きを相嘆き、各々慟(いた)む情(こころ)を陳べて贈答する歌63首
とある。宅守が40首、弟上娘子が
23首である。

天平12年(740)、中臣宅守(なかとみのやかもり)は、狭野弟上娘子(さののおとがみのおとめ)を娶(めと)った時に、聖武天皇の命
により越前の国・味真野に流罪となった。流罪になった原因ははっきりしないが、政争絡みの中傷によるものではないかとされてい
る。別れ別れになった二人は、お互いを想う心を歌にして贈り合った。宅守は、1年半ほどで流罪を解かれ平城京へ戻った。

越前の里・味真野苑にある万葉館では、二人の歌を中心に、万葉のロマンと恋の歌をコンセプトとした展示がされている。
                                        

万葉館前のモニュメントは二人が寄り
添った形で、その前には弟上娘子の歌
碑がある。
味真野に 宿れる君が 帰り来む 時の迎えを いつとか待たむ  弟上娘子 巻15−3770
味真野にいらっしゃるあなたが帰って来られる時が来るのを、いつまで待てばよいのでしょうか。


君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも
狭野弟上娘子 巻15−3724
あなたの行く長い道のりを、手繰り寄せて畳んで焼き滅ぼしてくれる
ような天の火があったらよいのに。


塵泥の 数にもあらぬ 我れゆゑに 思ひわぶらむ 妹がかなしさ
中臣宅守 巻15−3727
塵や泥のように物の数ではない私ゆえに、今頃落胆しているであろう
あなたがいとおしくてならない。

この二つの歌碑は犬養孝先生の揮毫で、「比翼の丘」と名付けられた少し小高いところに向かい合ってたてられている。
                                       

あしひきの 山道越えむと する君を 心に持ちて 安けくもなし
弟上娘子 巻15−3723
我がやどの 松の葉見つつ 我れ待たむ
早帰りませ 恋ひ死なぬとに 
弟上娘子 巻15−3747
白栲の 我が下衣 失はず 持てれ我が背子 直に逢ふまでに
弟上娘子 巻15−3751
逢はむ日の 形見にせよと たわや女の 思ひ乱れて 縫へる衣ぞ
弟上娘子 巻15−3753
魂は 朝夕に たまふれど 我が胸痛し 恋の繁きに
弟上娘子 
巻15−3767
帰りける 人来れりと 言ひしかば ほとほと死にき 君かと思ひて
弟上娘子 巻15−3772

あをによし 奈良の大道は 行きよけど
この山道は 行き悪しかりけり 
宅守 巻15−3728
畏みと 告らずありしを み越道の 手向けに立ちて 妹が名告りつ
宅守 巻15−3730
我妹子が 形見の衣 なかりせば 何物もてか 命継がまし
宅守 巻15−3733
遠き山 関も越え来ぬ 今さらに 逢ふべきよしの なきが寂しさ
宅守 巻15−3734
山川を 中にへなりて 遠くとも 心を近く 思ほせ我妹
宅守 巻15−3764
今日もかも 都なりせば 見まく欲り 西の御馬屋の 外に立てらまし
宅守 巻15−3776

池を挟んで向かい合ってたつ大きな歌碑には、それぞれ6首の歌が刻まれている。 
                              
■城福寺門前

春の日に うら悲しきに 後れ居て 君に恋ひつつ うつしけめやも  弟上娘子 巻15−3752

向ひ居て 一日もおちず 見しかども 厭はぬ妹を 月わたるまで  宅守 巻15−3756 
                   
■小丸城跡

我妹子に 恋ふるに我れは たまきはる 短き命も 惜しけくもなし
宅守 巻15−3744

天地の 神なきものに あらばこそ 我が思ふ妹に 逢はず死にせめ
宅守 巻15−3740

命あらば 逢ふこともあらむ 我がゆゑに はだな思ひそ 命だに経ば
弟上娘子 巻15−3745

天地の 底ひのうらに 我がごとく 君に恋ふらむ 人はさねあらじ
弟上娘子 巻15−3750







 
                         
■清水頭交差点

我が背子が 帰り来まさむ 時のため 命残さむ 忘れたまふな
弟上娘子 巻15−3774
あなたが帰って来られる時のために、何とかして命を残しておきます。
忘れないでください。


逢はむ日を その日と知らず 常闇に いづれの日まで 我れ恋ひ居らむ
宅守 巻15−3742
逢える日がいつとも知れず、
真っ暗な気持ちで、いつの日まであなたを恋い慕っていることでしょう。






 
                       
■浅水川万葉大橋欄干

味真野に 宿れる君が 帰り来む 時の迎えを いつとか待たむ
弟上娘子 巻15−3770

今日もかも 都なりせば 見まく欲り 西の御馬屋の 外に立てらまし
宅守 巻15−3776