万葉の旅

引津の亭

08/5/21
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天平8年(736)、聖武天皇の時代に派遣された遣新羅使に関連する歌が、万葉集の巻15に145首ある。
一行は博多湾の荒津を船出するが、海が荒れ湾の西口にある韓亭で停泊する。荒津から韓亭までは20kmほど。
3日間停泊して船出し、次に停泊したのが引津の亭である。志摩半島西岸の引津は東岸の韓亭からは約10km。

                                               引津湾の奥から可也山を見る。
遣新羅使人船泊ふなどまりして作る歌七首

草枕 旅を苦しみ 恋ひれば 可也かやの山辺に さを鹿鳴くも 壬生使主宇太麻呂みぶのおみうたまろ  巻15−3674

沖つ波 高く立つ日に あへりきと 都の人は 聞きてけむかも 壬生使主宇太麻呂  巻15−3675

あまぶや かり使つかひに てしかも 奈良の都に 言告ことつらむ 巻15−3676

秋の野を にほはすは 咲けれども 見るしるしなし 旅にしあれば 巻15−3677

妹を思ひ らえぬに 秋の野に さを鹿鳴きつ 妻思ひかねて 巻15−3678

大船に 真楫しじ貫き 時待つと 我れは思へど 月ぞ経にける 巻15−3679

を長み らえぬに あしひきの 山彦響とよめ さを鹿鳴くも 巻15−3680



志摩町の志摩中央公園にある万葉歌碑。木が成長して見えにくい。
右端に志摩中央公園の標柱があり、次が巻15−3675、次が巻15−3680、
そして一番左が、巻7−1279の「梓弓引津の辺なる」の歌碑。


綿積神社の巻15−3674の歌碑。

 


綿積神社には歌碑が2基あり、この歌碑は遣新羅使とは無関係の歌である。この歌は5・7・7・5・7・7の旋頭歌である。

梓弓 引津なる なのりその花
むまでに
 はずあらめやも なのりその花
 巻7−1279

引津の海岸になのりその花が咲き、その花をを摘むことができる日まで逢いにゆかずにはおられない、なのりその花よ。

なのりそは漢字で莫告藻と書く。なのりそは、初夏の頃に海藻のホンダワラがつける生殖器官であり花ではない。万葉人の鋭い感性は、そこに花をイメージした。