山頭火と歩く

小諸

2017/10/27 K-5Us
           
五月十八日 日本晴

岩村田から小諸まで二里半、汽車の窓から眺める風景は千曲谿谷的なものがある。
乙女といふ駅名も珍らしかつた(九州にといふ地名もあるが)。

小諸へ着いたのは夕暮、さつそく宿を探して、簡易御泊処鎌田屋といふのを見つけた。
老婆が孫を相手に営業をつゞけてゐるといふ。前金で六拾銭渡す。茶菓子、座蒲団、褞袍を出してくれる、有難い、夜具も割合に清潔だつた。

暮れきらないうちに、懐古園(小諸城)を逍遙する。樹木が多くて懐かしいが、風が吹いて肌寒かつた。
藤村詩碑は立派なものである、藤村自身書いた千曲川旅情の歌が金属板にしてある。その傍の松の木が枯れかけてゐるのは寂しかつた。
……雲白く遊子かなしむ……旅情あらたに切なるを感じた。


小諸城址三の門。


藤村詩碑。

二之丸阯に
藤村庵がある、古梁庵主宮坂さんが管理してゐる。
小諸文化春秋会といふ標札も出してある(藤村氏自身は藤村庵を
深草亭と名づけた)。
現在、二の丸跡に建物はない。

二之丸阯の石垣の一つに牧水の歌が刻んである。
かたはらに秋くさの花かたるらく
  ほろびしものはなつかしきかな


山頭火が見た二の丸跡石垣の牧水歌碑。

見晴台からの眺望はよろしい。千曲川のよいところがよく眺められる。噴き出してゐる水もよかつた。


山頭火も見たであろう千曲川の流れ。

山頭火は懐古園で3句詠んでいる。

 浅間は千曲はゆうべはそゞろ寒い風
 ゆふ風さわがしくわたしも旅人
 その石垣の草の青さも(牧水をおもふ)


夜は一杯ひつかけて街を散歩する。小諸銀座といふてもお客は通らない。小川の水音が聞えるだけだ。
なかなか寒い、風が旅愁をそゝる。
また一杯ひつかけて、おばあさんのいはゆる娑婆ふさぎのからだを寝床に横たへた。

五月十九日
 曇、風、雨。

さすがに浅間の麓町だけあつて、風が強くて雨が冷たい。
やつぱり酒だ。酒より外に私を慰安してくれるものはない(句作と友情とは別物として)。朝から居酒屋情調を味つた。

風雨の中を中棚鉱泉宿に落ちつく、安くして貰つて一泊二飯一円。
あまり待遇はよくないけれど、幾度でも熱い湯にはいれるのがうれしい。
終日ごろごろごろして暮らした、終夜ぐうぐう寝た。
昭和(戦前)の1円は現在でいうと3000円くらい。山頭火が言うように、1泊2食3000円は安い。今の中棚荘は15000円くらい。


中棚荘は今も健在。


中棚荘入口左手にある山頭火直筆の句碑。

句碑には小諸付近で詠んだ句が3句と旅日記の抜粋が刻まれている。
 あるけばかっこう あるけばかっこう
 落葉めくとく まどろめば ふるさとの夢
 ゆうかぜ さわがしく わたしも旅人

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