
余呉湖の「天女の衣掛柳」。この柳は中国系で、日本の
柳とは樹形が異なり柳には見えない。 |
陽が夕霧のむこうで薄らぎはじめるころ、右前方の水が光るのを見た。余呉湖である。かねてこの湖畔ほど上代の寂びた景色はないと思っていたが、近づいてみると、およそ余呉の感じとは別な、たとえば信州のどこかの湖畔にあるような軽食堂ができていた。
この土地に伊香刀美という男がいて、あるとき湖のそばで水浴をしている八羽の白鳥をみた。近づくと、天女であり、かれはおどろき、かつ恋いこがれ、ひそかに犬に命じて天羽衣を盗ませた。天女たちはおどろいて天に昇ってしまったが、しかし羽衣を盗まれた天女だけは地にうずくまってどうすることもできず、やがて伊香刀美の妻になり、四人の男女を生むにいたった。ところがあるとき彼女は伊香刀美がかくしておいた羽衣をみつけ、それを着て天に帰ってしまった、という説話である。この古い説話から、彼女たちがあるいは渡来人の娘たちではないかと想像するひともいる。 |