司馬遼太郎の風景 2003
高野山みち
山門の柱に、「高野山事相講傳所」という看板がかかっている。密教のいう事相と一般仏教でいう律とは語義としては違っているが、しかしいずれも行儀や作法を専修するということで、同義語としてふつう使われる。だからここも真言密教の律院といっていい。律とは仏教における戒律の体系である。よく知られているように、盲目の唐僧鑑真が天平のころに日本にもたらした。奈良の唐招掟寺をはじめ律院の建物の多くに中国のなまなにおいがあるというのは当然といっていいが、私の記憶にあるいくつかの律院には、こういう山門がなかったように思える。
[司馬遼太郎の風景]