司馬遼太郎の風景

オホーツク街道冬の旅

抜海岬、野寒布岬、声問、宗谷岬、クッチャロ湖、目梨泊遺跡、
オムサロ遺跡、北方民族博物館、知床 
06/6/6-8 *istD
   
抜海岬
北海道 の地図をひろげてみた。こぶしをつきだして親指を立てると、稚内半島である。低い丘陵が背になっている。親指の爪の先が野寒布岬である。さらに人さし指を立てると、その指先が宗谷岬で、親指と人さし指のあいだの海面が、宗谷湾としてひろがっている。
まず、日本海に出てみた。「抜海岬」という小さな岬があった。ここは、明治時代までは沖の礼文・利尻両島への渡海地だった。
海岸わきを自動車道路が通っている。
丘陵の上が大岩になっており、その大岩に小岩が載っている。ちょっとした奇観である。
抜海の地名はこの岩からきた。山田秀三氏の『北海道の地名』では、パッカイ・ぺ(子を背負う・もの)からきたのだろう、という。

   

抜海岬の大岩小岩。すぐそばに神社があり、ご神体のような存在になっているのではないだろうか。

天塩町から抜海岬へむかう県道から見た利尻島。
天気が悪くて、雲がかかっていた。
   
野寒布岬
野寒布岬まで行ってみた。
岬には。「ノシャップ寒流水族館」があるくらいで、それも休館していた。
沖には冬雲が垂れている。
渚のむこうに、水鳥が五羽ほど浮いていて、目にふれるものはそれだ
けであった。


野寒布岬の稚内灯台と寒流水族館。
声問こえとい
「声問橋」というバス停があった。雪をかぶった堤が水に近づくあたりに貝塚があったらしい。橋が工事されるときにさまざまなものが出土したのである。この何でもない橋下の堤にも、千年以上の文化が重層していることがわかる。縄文、オホーツク、擦文といったふうにである。


声問橋付近の風景。
   
●宗谷岬
わたしどもは宗谷湾に沿って北上し、最北端に宗谷岬にむかっている。
このまま走れば――海に道路があれば――あと一時間で樺太に着くはずである。
右側は、宗谷丘陵が続いている。ソウヤとはアイヌ語である。宗谷岬の海上にある岩礁(いまは弁天島)をさしているという。

   

宗谷丘陵では放牧が行われている。

「日本最北端の地」碑。


間宮林蔵の像。後方は弁天島。

宗谷岬にむかっている。日本の陸地の最北端に、である。
樺太までは四〇キロしか離れていない。
両者のあいだを、潮流がはげしく流れている。日本名が宗谷海峡である。


日本最北のラーメン屋さん、その名も間宮堂。
店の前に止まっているシルバーの車は、オホーツク街道の旅を共にした筆者の車
   
●クッチャロ湖
その水辺に越冬中の白鳥がたくさんいた。
シベリアからやってきた連中で、幼鳥が多いらしく、色が煤けていて、白鳥というより灰色鳥である。
幼鳥はみなこんな色だそうで、成鳥になるにつれて、バレエの衣装のように白くなる。
   

司馬さんがおとずれたときは、この桟橋あたりにたくさんの白鳥が群れていたことだろう。

この春、飛び立てなかった白鳥が2羽いて、そのうちの1羽が岸を散歩していた。
   
●目梨泊めなしどまり遺跡
現在の集落に近いところに、「目梨泊遺跡発掘調査作業事務所」という看板のかかった建物がある。
その建物に入ると、正月六日だというのに、多くの主婦たちが、遺物の復原作業に従事していた。

オホーツクミュージアムえさしは、オホーツク文化の最大級の遺跡・目梨泊遺跡の出土品を常設展示している。
展示品もさることながら、その建物の立派さに驚いた。
   
●オムサロ遺跡
翌朝、オムサロ遺跡に行った。
オムサロとは紋別市域の西のはずれの地名で、その段丘上に、たくさんの古代住宅遺跡がある。
それらは、いま市によってきれいに整理された。その上、当時の住居が復原され、「紋別オムサロ遺跡公園」になっている。

   
北方民族博物館
石段をのぼってゆくと、 正面に三角錐のたかだかとした構造がそびえていて、きわだつ思いがする。おそらくニプヒやウィルタといった少数民族の夏の住居がイメージされての設計にちがいない。
   

北海道立北方民族博物館。

モヨロ貝塚のヴィーナス。材料はマッコウクジラの骨。
   
●知床
山中から海岸道路に出、やがて知床半島西側における唯一の漁港にむかって降りた。ウトロ漁港である。温泉場でもあり、また遺跡の多いところでもある。
浜に降りた。海は変哲もないが、浜の景観に驚かされた。奇岩怪石が立ちならんでいるのである。

この旅は、秋の網走のモヨロ貝塚からはじまって、雪の知床峠で終ろうとしている。
オホーツク人の正体につき、私の想像力では手に負えなかった。が、そのことに後悔していない。
そんなことよりも、私どもの血のなかに、微量ながらも、北海の海獣狩人の血がまじっていることを知っただけで、豊かな思いを持った。
旅の目的は、それだけでも果たせた。