天主堂巡礼 冷水天主堂/江袋天主堂  長崎県新上五島町

   
時空を越えて

クルスの形のようにも見える中通島の、北へ鶴の頭のように細くのぴた半島の途中にある温泉付き国民宿舎で一泊し、翌朝、青砂ケ浦天主堂に立ち寄った後、奈摩湾の西岸沿いに冷水天主堂へ向かった。木造瓦葺きの純日本的な聖堂は、青い海を見下ろす丘の上で朝の光を受けて美しく輝いていた。台風のためか正面の6角形の塔の色ガラスが割れ、ベニヤ板で補修されている。


六角形の塔(冷水天主堂)



奈摩蒼の最奥部まで引き返し、半島の曲りくねった道を北へ辿ること約30分、東シナ海に面して明治15年建造の木造の江袋天主堂がある。江袋の会堂は、現在使用されている木造の天主堂の中で最も古く、初期天主堂の姿がほとんど原形のまま伝えられているので、その文化財的価値は高い。

天主堂へ上る石段の下に車を止めて見上げると、黄色い十字架のついた白壁が、秋空の青に輝いていた。南側の屋根は、台風の被害を受けて青いシートを被っている。「建物の修理で、また信徒の負担が増えるな」と思う。

入口には土間があり、靴を脱いで重い引き戸を開けると、プーンとかび臭い匂いがする。天主堂に入るときのいつもの緊張感で体を堅くし、幅子をとつて祭壇に向かって頭を下げ、息をこらしてそっと堂内を見渡す。

日本の会堂はパジリカ方式という矩形をしている場合が多いが、この会堂は正方形に近い感じを受ける。窓のデザインはシンプルで、天井はリブ・ヴォールトであるが、高さがないために少し圧迫されるような感じを受ける。

祭壇は、背後のステンドグラスで逆光になるため、黒い塊のように見える。その黒い塊のような空間に、時空を越えた何か得体の知れないものを感じて慌てて外に出ると、何事もなかったかのように秋の光が聖堂に降りそそいでいた。内部の暗さに比べると、外の明るさが眩しい。

天主堂は、過疎化によつて信徒が流出すると次第に荒れてゆき、やがて崩壊する。人々が天主堂に出入りし、人々の体温が残っている間は、その体温を活力にして天主堂は静かに息づいている。人々の祈りが途絶えると、天主堂は急速に荒廃してゆく。一般的に建物とはそういうものなのかもしれないが、神の家・祈りの場としての天主堂の崩壊には、生き物の死に似たものを感じる。江袋天主堂の永遠を祈りながら、陽の傾さかけた天主堂を後にした。


黄色いクルス(江袋天主堂)
江袋天主堂は、2007年2月12日に漏電により焼失した。
   
07/10/15 *istDS2