寅さんが歩いた風景
  
第11作 寅次郎忘れな草 北海道網走市 06/6/8取材 *istD

今日は、寅、さくらの父の二十七回忌である。その時、寅が久し振りに戻って来た。だが、寅のおかげで法事はメチャクチャになってしまう。ある日、さくらが、満男にピアノを買ってやりたいと言うのを聞いた寅は、早速、玩具のピアノを買って来て、得意満面。ほしいのは本物のピアノだ、とも言えず寅の機嫌をとるが、やがてその場の雰囲気に気がついた寅、皆に悪態をついてプイッと家を出てしまった。

北海道。夜行列車の中で、ひとりの女が、走り去る外の暗闇を見ながら涙を流している。網走。橋の上で寅は列車の女に声をかけられる。名はリリーといって、地方のキャバレーを廻って歌っている。互いに共通する身の上話をしながら、いつしか二人の心は溶け合うのだった。柴又のさくらに、北海道の玉木という農家から手紙が届いた。寅が心機一転して、玉木の家で働いたものの日射病と馴れない労働で倒れてしまった、というのである。早速さくらは、北海道へ行き、寅を連れて柴又に帰って来た。

寅が柴又に戻って来て数日後、リリーがたずねて来た。抱き合って再会を喜ぶ寅とリリー。そして、皆に心のこもったもてなしを受けたリリーは、自分が知らない家庭の味に触れ、胸が熱くなるのだった。数日後の深夜。安飲み屋をしている母親と喧嘩したリリーは、深酔いしたままで寅に会いに来た。だが、寅がリリーの非礼を諭すと、リリーは涙を流しながら突び出て行った。翌日、寅がリリーのアパートを捜し出してたずねるが、既に彼女は引っ越した後だった。その日、寅はさくらに、自分の留守中にリリーが来たら、二階に下宿させるように、と言い置いて旅に出た。

数日後、さくらは、リリーからのはがきで、寿司屋の板前と結婚して、小さな店を出したことを知った。その店をたずねたさくらは、以前とは想像もつかぬ程血色がよく、生き生きと働いているリリーを見るのだった。その頃寅は、ふたたび北海道の玉木の家をたずねていた。晴れわたった青空、北海道にも夏が来た。


  

    

    
寅さんは網走神社の石碑のところで、レコードを売るが全く売れない。網走橋の上でしょんぼりしていると、リリーが声をかけてくる。

リリー さっぱり売れないじゃないか
寅   不景気だからな、おたがい様じゃねぇか?










 

    
ふたりは、造船所横の河原に降りて、しばらく話をする。
リリーが言う。
夜汽車に乗ってさ、外見てるだろ。そうすっと、なんにもない真っ暗な畑ん中なんかにひとつポツンと灯りがついてて、
ああ、こういうとろにも人が住んでるんだろうな、
そう思ったら、なんだか急に悲しくなっちゃって、涙が出ちゃいそうになることってないかい?


そして、さらにリリーがしみじみと言う。
あたしたちみたいな生活ってさぁ、普通の人とは違うのよね。それもいいほうに違うんじゃなくて、なんていうのかなぁ、あってもなくてもどうでもいいみたいな、つまりさ、アブクみたいなもんだね。


←写真中央付近がロケ地
やがて、別れのときが来る。

リリー じゃあ、また、どっかで会おう。
寅さん ああ、日本のどっかでな。
リリー 兄さん。兄さん何て名前?
寅さん え、オレか。
    オレは葛飾柴又の車寅次郎って言うんだよ。

リリー 車寅次郎。じゃぁ、寅さん?
寅さん うん。
リリー フフ、いい名前だね。

ひとりになった寅さんは、帽子岩の見える海岸にたたずみ、「アブクかぁ」とつぶやく。寅さんの後ろ姿がさびしい。